――Sentinel-1で見る2026年8月の冠水(可能性)
2026年8月13日、千葉県では記録的な大雨となり、大網白里市周辺でも道路や農地の冠水が相次いだ。
今回の大雨では、人的被害も報じられており、被害に遭われた方々にお見舞い申し上げます。
本記事では、公開されている衛星データと報道資料をもとに、豪雨前後の大網白里市周辺の変化を確認したものです。
14日に撮影された報道写真を見ると、JR大網駅の周辺には茶色く濁った水が広がり、道路、駐車場、宅地、農地の境界が分かりにくくなっている。ヘリコプターからの映像でも、水田地帯が大きな湖のように見える場所や、水に囲まれた住宅、冠水した鉄道沿線などが確認できる。
今回、この豪雨の前後に撮影された人工衛星の画像をGoogle Earth Engineで比較し、大網白里市周辺のどこで地表の状態が大きく変わったのかをみていく。
雲の上から水害を見るSentinel-1
解析に使用したのは、欧州宇宙機関の地球観測衛星「Sentinel-1」である。
Sentinel-1は、通常のカメラではなくマイクロ波を地表へ照射するSAR(合成開口レーダー)を搭載している。雲に覆われていても、昼夜を問わず地表を観測できることが大きな特徴だ。
豪雨災害の直後は厚い雲が残ることが多い。実際、今回利用できたSentinel-2の光学画像は、豪雨前の8月9日が雲量約49%、豪雨後の8月14日が約68%だった。地表の多くが雲に隠れ、光学画像だけで冠水域を確認するのは難しかった。
その点、Sentinel-1は雲の影響をほとんど受けない。そこで、豪雨前と豪雨直後の同じ観測軌道の画像を比較した。
解析条件は次のとおりである。
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対象範囲:大網白里市中心部から半径約8km
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豪雨前:2026年8月1日のSentinel-1画像
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豪雨直後:2026年8月13日夜(日本時間では14日早朝)の画像
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観測方向:DESCENDING(下降軌道)
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相対軌道番号:46
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使用偏波:VV・VH
観測条件が異なる画像を単純に比較すると誤差が大きくなるため、今回は同じ軌道の画像を選んだ。
豪雨後に暗くなった場所を抽出する
SAR画像では、滑らかな水面はマイクロ波を衛星とは別の方向へ反射するため、一般に暗く写る。
そこで、豪雨前よりも豪雨後の反射が大きく低下した場所を抽出した。さらに、細かなノイズを抑える処理を加え、JRC Global Surface Waterのデータを使って、池や河川など普段から水が存在する場所をできるだけ除外した。
その結果、大網白里市周辺の低地に多数の「冠水候補」が現れた。
候補域は、大網駅周辺だけでなく、東金線沿線や駒込・永田方面、その先の低平な農地にも広がっている。大きなまとまりの多くは水田地帯と重なっていた。
約421haという数字の意味
今回の条件で抽出された冠水候補の合計は、対象範囲内で約421haとなった。
ただし、この数字をそのまま「実際に浸水した面積」と読むことはできない。
SARの反射は、冠水以外の理由でも変化する。例えば、次のような場所が候補に含まれる可能性がある。
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もともと水が張られていた水田
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雨で非常に湿った土壌
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強風や大雨で稲が倒れた場所
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建物や樹木によってレーダーの影になる場所
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観測角度の影響を受けた斜面や構造物
したがって、約421haという値は、行政が調査した被害面積ではなく、「豪雨の前後でSARの反射が冠水時に見られる方向へ大きく変化した範囲」の暫定値である。
正確な浸水面積を確定するには、現地調査、自治体の被害記録、より細かな標高データ、土地利用情報などとの照合が必要になる。

報道写真と一致する大網駅東側
衛星解析を検証するうえで特に重要だったのが、2026年8月14日午前9時16分に撮影された共同通信の航空写真である。
写真にはJR大網駅が写っており、線路の曲線、県道83号、駐車場、太陽光パネル、住宅、水路などをGoogleの航空写真と照合できる。
写真の中心は、おおむね北緯35.5232度、東経140.3172度付近。大網駅の東側から北東側に当たる。
通常の航空写真では道路、農地、宅地が明確に分かれているが、報道写真では低い土地の多くが濁水に覆われている。ここは、Sentinel-1で反射の変化が確認された地域とも近い。
この一致から、衛星画像に現れた変化の少なくとも一部は、実際の冠水を捉えている可能性が高いと考えられる。
共同通信の写真:
記録的な大雨で冠水したJR大網駅周辺
空撮映像から見える広域的な影響
ANNnewsCHで公開されているヘリの空撮には、大網白里市をはじめ、本納駅や蘇我駅など複数の地域が撮影されている。
視聴者のコメントも参考にすると、映像は大網駅周辺から東金線の福俵駅方面へ進み、その後、外房線の永田・本納方面、さらに蘇我駅や千葉市内へ移動したようだ。
そのため、映像に登場するすべての冠水場所を「大網駅周辺」として扱うことはできない。一方で、大網駅から福俵駅へ延びる東金線沿線や、永田駅から本納駅周辺の低地でも、大規模な滞水が発生していた可能性を示す資料といえるだろう。
ANNの空撮映像:
【ヘリ空撮・緊急ライブ】千葉で記録的豪雨 一夜明けての状況は?
なぜ大網駅周辺に水が集まるのか
大網駅周辺の地形を見ると、西側には土気方面へ続く丘陵があり、東側には九十九里平野の低く平坦な土地が広がっている。
短時間に大量の雨が降ると、丘陵側から流れてきた水が低地に集まる。一方、東側は海まで緩やかな地形が続くため、水が短時間で排出されにくい。
河川から水があふれる洪水だけでなく、排水路や下水道の能力を雨量が上回る「内水氾濫」も起こりやすい条件だ。
大網白里市の計画にも、金谷川の流下能力を高める河川改修とともに、「大網駅周辺の浸水被害等軽減に向けた内水対策」の検討が記載されている。
市の計画資料:
大網白里市第6次総合計画 前期実施計画
https://www.city.oamishirasato.lg.jp/cmsfiles/contents/0000015/15138/zj2025.pdf
衛星画像は被害の全体像を補う
報道写真や現地映像は、実際に水が存在したことを直接確認できる。一方、撮影された場所は限られている。
衛星画像の強みは、現場の細部を確認することではなく、同じ条件で広い地域を見渡せることにある。
今回の解析では、報道された大網駅周辺だけでなく、その外側の水田地帯にも多数の変化域が現れた。これらがすべて冠水したとは断定できないが、豪雨による影響が駅前の道路だけに限られず、周辺の低地へ面的に広がっていた可能性を示している。
一方で、光学衛星Sentinel-2は雲に遮られ、豪雨直後の状況を十分には確認できなかった。今後、雲の少ない画像が追加されれば、泥の堆積、植生の変化、水が引いた後の地表状態なども調べられる可能性がある。
おわりに
今回の解析から見えてきたのは、大網白里市の冠水が道路の一点だけで起きた現象ではなく、大網駅周辺から鉄道沿線、さらに周囲の低平な農地へ広がった可能性である。
Sentinel-1が示した冠水候補は約421ha。ただし、これは現地で確認された被害面積ではなく、水田や湿った地面などを含む可能性がある暫定的な解析結果である。
それでも、報道写真で実際に冠水が確認された場所と、衛星画像上の変化が近い位置に現れたことには意味がある。
雲に覆われ、地上から全体を見渡せない災害直後でも、SAR衛星は広域的な変化を記録できる。現地映像、航空写真、地形、防災情報と組み合わせることで、豪雨が地域にどのような影響を与えたのかを、より立体的に捉えることができる。
※本記事の解析はGoogle Earth Engine上で公開衛星データを用いて行った独自解析です。表示した冠水候補および面積は、行政機関が調査・公表した被害範囲ではありません









